日本の自動車メーカーと言えば、トヨタと答える人が大半だと思います。
その天下のトヨタが、不正車検をしていたのはご存じですか?
内部告発により発覚し、高輪店を皮切りに次々不正が発覚しました。
今回は、トヨタ不正車検と、その背景にある整備士不足問題について解説します。

闇車検とは?
車検を通すには、点検項目をすべてチェックして数値を計り、そのデータを記入していく必要があります。
しかし、闇車検ではチェック項目を実際に検査せずに、数値だけ適当な値を記入し車検を通していました。
闇車検=不正車検です。こんなとんでもないことが、トヨタのディーラーにて行われていました。
トヨタ販売店11社、12店舗で不正車検が発覚
2021年 レクサス高輪店を皮切りに、トヨタ販売店11社、12店舗で不正車検が発覚しました。
ネッツトヨタ愛知店では、指定整備業務取り消し・自動車検査員解任の行政処分。
副店長1名、検査員9名が書類送検となりました。
指揮をとっていたトヨタへの罰則はなく、現場で働いていた人が処分を受けました。
不正車検が行われた台数は、2018年12月~2021年1月までの約2年間で、5158台になります。
毎月200台以上の車が不正車検で、車検を通していたことになります。

不正車検の内容・代表的なものをピックアップ
・4WD車の速度計を検査しない。
ローラーの上で車を走らせ、メーターがあっているかのチェックを行っていなかった。
・前照灯を水で濡らし、一時的に光度を高くする。
ヘッドライトの光度も車検対象です。その光度が足りないときに水をかけて光度を確保していました。
水をかけることによって一時的に光量が上がります。その特性を利用して車検を通していました。
・運転席に人が乗ってない状態で前照灯を検査。
ヘッドライトを検査するときの条件があります。運転席に人を乗せた状態で計測することが条件になっています。
運転席に人が乗ると、車体の傾きが変わり、ヘッドライトの照らし方も変わります。
そのため、人を運転席に乗せて検査する必要があります。
・車内の荷物を降ろさずに検査。
こちらも先程の理由と同じで、車検の時には荷物を降ろす必要があります。
・排ガスの一酸化炭素濃度を測定しない
マフラーの中にワイヤーのようなものを差し込み、濃度を測定しなければいけないのですが、それも行われていませんでした。
・数値の改ざん
検査をして規定の数値を確保できなければ、部品の交換や、何らかの対応をしなければいけません。
しかし、何の作業もせずに、数値だけ書き換えて車検を通していたそうです。
なぜこんな違法車検が行われるようになってしまったのか?
不正車検の裏には、トヨタの問題が隠れていました。
検査員の方たちは、楽をしたくてやっていた方は少ないと思います。

不正車検が行われた原因とは?
スーパークイック45分車検
トヨタは車検スピードを売りに出していて、45分以内で車検を終わらせる必要がありました。
車検の項目は全部で56項目あります。通常通りの検査で行った場合、1時間半はかかります。
適切な点検をすると、時間内に車検を終わらせることは出来ません。
営業ノルマも厳しく、次々にお客さんを呼び込み、車検をドンドン終わらせなければいけなく、戦場のような状態になっていたそうです。
整備士は、大慌てで作業を終わらせていくしかなかった。
過度のサービスを提供したことによる不正で、現場の整備士や営業所の責任ではなく、トヨタの経営陣がスピード車検を売りにした事によるものであると言えます。
こんな状態で、約2年間も不正車検を続けたのは、内部告発して世間に公表されてしまうと、会社がつぶれてしまうのではないかという恐怖心があったみたいです。

国の仕事を代行しているという意識の欠如
本来、車検は陸運局で検査員が検査を行いますが、ディーラーには認証指定工場と呼ばれる車検の行える工場があります。
国から指定された工場では、整備士が検査員という資格を与えられ、国の仕事である車検業務を請け負うことができます。
この検査員は、「みなし公務員」になります。
国の仕事を代行しているという意識をしっかり持ち、利益重視ではなく、きちんと車検を行う必要がありました。
利益重視の車検対応になっていたのは、現場で働く整備士が、国からの大事な仕事という認識が欠如していたのではないでしょうか。

いにしえの車検項目
車検項目にも問題があります。
最近の自動車はハイブリッド化が進み、システムもハイテクになっています。
しかし、車検項目は昔と変わらず、現代の車では見なくても問題ないような項目までチェックする必要があります。
例えば、新車で排ガスが臭い車などはほぼありません。
昔の車であれば、ピストンリングの間に隙間とかがありましたが、現代ではほぼありません。
最新のクリーンな車にも、排ガスチェックをしなければいけません。
多種多様な車に合わせて、車検項目も変えていく必要があると思います。
国土交通省も、変えていかなければならないことは認識しています。
最近では、どの業種もIT化が進み、機械で自動化が行われていますが、陸運局の車検は未だに古く、書類もいまだに紙媒体でのやり取りが主流で、時代に取り残されています。
車検場に行った方はわかると思いますが、未だに鉛筆で住所を何度も書かなければいけません。

整備士不足
不正車検が行われたのは、そもそも整備士が少ないからでは?とも言われています。
整備士の現在の平均年齢は、45.7歳と高齢化しています。
原因となるのは、若い人がいないという事と、長く続ける人が少ないというのが問題です。
整備工場の数は減っていないのにもかかわらず、整備士の数だけ減っていき、人手不足という問題が出てきています。
そもそも、自動車整備学校に入学する生徒の数は激減していて、15年間で半分にまで減っています。
2003年度は1万2000人くらいいたのに対し、2019年度には6000人まで減っています。
なぜ、ここまで学生が減っているのか?その原因は、少子高齢化で若い人が減ったことと、
若者の車離れが原因となっています。
職業としても人気がないのは、整備士の給料が安いという問題もあります。
初任給の年収は約200万で、平均年収は400万円となっています。
日本の初任給の平均年収は300万円と言われています。これから比べると100万円も低いことがわかります。
さらに、3Kの仕事と呼ばれていて、キツイ・汚い・危険な仕事と言われています。
働き続けても給料はなかなか上がらず、10年後、15年後を想像したときに心が折れてしまう方が多いみたいです。
これらの理由から、整備士の数は減っています。

企業の取り組み。給料の改善・3Kの改善
減少傾向にある整備士に対して、企業も改善を進めています。
留学生の受け入れを積極的に行い、海外から人員を補充したり、給料のベースの底上げを行い、初任給の年収を250万円~300万円に引き上げている企業もあります。
また、3Kの改善として、ピットの中にエアコンを取り付けている場所もあり、労働環境も改善されつつあります。
数年後には、環境もよくなり初任給もよくなると言われています。
動画で詳しく解説
まとめ
トヨタの不正車検の闇は、単に現場の問題ではなく、その背景には、経営方針による圧力・整備士の認識不足・いにしえの車検項目・人手不足問題があります。
最近騒がれている整備士不足問題は、企業側が改善に向けて取り組んでいます。
整備士業界に興味のある方で、3Kで給料安いからやめようと考えた方は、数年後には、業界全体が改善されると言われていますので、今後の動向をチェックして、考えてみてはいかがでしょうか?